第8章 月見上げ、恋い慕う彼の人想う夜
翔が発つ前夜、智はいつになく激しく翔を求めた。
ただ、あの雨の日以来身体を重ねてはいなかったせいか、翔は智の身を案じ、果てても果てても尚求めて来る智を拒んだが、智の涙には滅法弱い翔だ、結局求められるまま、智の身体に精を送り続けた。
「早く…お戻り下さい…ね…」
智の意識が途切れるその瞬間まで、ずっと…
翔は、疲れ果て眠りについた智の身体を、湯に浸した手拭いで綺麗に拭いてやると、寝間着を着せてやり、自身の胸にそっと抱き寄せた。
可哀想に…
私と離れることが、智にとってどれ程辛いことか…
出来ることなら、お役目など放り出し、このまま智を抱いていてやりたいが、そうもいかないか…
「済まんな、智。なるべく早く戻るから」
翔は眠った智の額に口付けると、智の呼吸に自身の呼吸を合わせ瞼を閉じた。
翌朝、案の定と言うべきか…
「本当に行かれるのですか?」
寝間着のまま着替えもせず、朝餉の支度すらせずに、智は布団の中で身体を丸くした。
「お上からのお達しだ、仕方あるまい…」
翔は、もう何度目かになる言葉を口にした。
「良い子だから、聞き分けてはくれないか?」
智の髪を撫で、目に溜まった涙を指の腹で掬った丁度その時、門の開く音が聞こえ、続けて木戸の空く音がした。