第7章 猜疑と当惑に揺れる心
役人から届けられたという書状には、徒刑になる罪人へ墨入れのお役目のため、参上せよとの旨が記されていた。
その上、それには数日を要するとも…
「まあ、それは大変なお役目でございますね」
彫師の中には、それだけを生業としている者もいることは、智も当然知ってはいたが、まさかその役目が翔に巡り回ってくるとは思ってもおらず、心底驚きの声を上げた。
「暫くは忙しくなるのですね」
「そう…だな…」
「それで、幾日程お通いに?」
「その事なんだが…」
言いかける翔を遮るように、智は「あっ」と声を上げ、人差し指を顎先に着け、小首を傾げた。
「私もお供出来るのですか?」
それならばと腰を上げようとした智を、翔は手首を掴んで引き止めた。
「そう急くな。話はまだ終わっていない」
書は智を自身の膝に座らせると、長い髪を指で梳きながら、一つ溜息を落とした。
「良いか、よく聞け?」
真剣な、それでいてどこか寂しげに目を伏せる翔に、智は無言で頷く。
「私が出向くのは他藩の奉行所だ」
「え…、では…」
「そうだ、お前は連れては行けない」
「そんな…。でも、直ぐに戻って来られるのでしょ?」
「一月程はかかるだろうな…」
明らかに落胆の色を隠せない智の目に、大粒の涙が浮かび、翔はそれを指で拭った。