第7章 猜疑と当惑に揺れる心
普段通り二人で膳を挟んで向き合い、味噌汁をの椀に口を付けたところで、智が何かを思い出したように、箸を茶碗の上に置いた。
「そう言えば、昨日お留守の間にお役人さんがいらして、お師匠さんにこれをと…」
懐から書状を取り出した智は、それを翔に向かって差し出した。
「お役人が?」
翔は書状を受け取ると、中を見ることなくそれを懐にしまった。
「見ないのですか?」
「後で読むよ」
「でもお急ぎの用かも…」
智が急かすが、翔は何やら嫌な予感がして、どうしても書状を開くことが出来なかった。
それは、智が〝役人〟と言った時から感じていた事で、翔は自身の胸に広がり始めた不穏な空気を払うかのように、箸を休めることなく動かし続けた。
そして朝餉も終わり、後片付けをしようと智が土間へと降りたのを見てから、翔は文机に向かった。
懐に入れた書状を広げ、そこに書かれた文面に目を通した。
さてどうしたものか…
翔が感じた嫌な予感は見事的中し、書状を元通り畳直して文机の引き出しにしまった翔は、両手で頭を抱えたが…
こればかりは仕方あるまい…
思い直し、土間で水仕事をする智を自身の元へと呼び寄せた。
「どうかなさいましたか? お顔の色が…」
「実はな、智…」
翔は心配そうに自分を見る智の両手をそっと握った。