第7章 猜疑と当惑に揺れる心
智を起こさないよう、静かに布団に潜り込んだ翔だったが…
智の髪に触れた拍子に、それまで閉じていた智が瞼をぱちりと開けた。
「すまない、起こしたか?」
翔の問に、首を横に振って応える智に、翔は腕を回して身体を抱き寄せ、胸の中にすっぽり包み込んだ。
「ふふ、あたたかい…」
「今夜は冷える。こうしててやるから、早く寝ろ」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
智が差し出した小指に、翔が小指を絡めると、智は安心したように瞼を閉じ、再び深い眠りについた。
直ぐに聞こえ始めた穏やかな寝息と、胸に吹きかかる吐息の熱さに、翔は擽ったさと同時に、身体の芯が疼くのを感じるが、それを誤魔化すかのようにきつく瞼を閉じた。
…が、なかなか眠りに就くまでにはいかず、強い風が揺らす雨戸の軋む音を聞きながら、翔はまんじりとも出来きず…
そうして夜を過ごすうち、空は白々と開けて行き、翔の腕の中で智がもぞもぞと動き出したのを感じ、翔は咄嗟に瞼を閉じ、眠った振りをした。
すると智は翔を気遣いながら布団を抜け出し、静かに襖を開けた。
程なくして、閉じた筈の襖の隙間から、米の炊ける匂いと、味噌の匂いが漂い始めると、薄暗かった寝間に陽の光が差し込んで来た。
「お師匠さん、起きて下さい 」
智の、僅かに明るさを増した声と共に…