第7章 猜疑と当惑に揺れる心
余程一人で床に就くのが寂しいのか、翔に縋る智の目は微かに濡れて見え…
「分かった。湯浴みを済ませたら、私も直ぐに行くから、待っていなさい」
翔は言い聞かせるように言うと、智の手をやんわりと解き、額にそっと口付けた。
「本当に?」
「ああ、本当だ」
智はその一言に漸く納得したのか、寝間の襖を開け放ったまま、床に就いた。
翔はやれやれと思いながらも、湯浴みの支度を済ませ、風呂場へと向かった。
すっかり温くなった湯に浸かりながら、翔は和也から聞かされた話を思い返した。
私と智が情を交わす関係と知る者はいない。
もし仮に知っていたとして、智を陰間などと言う者がいるだろうか…
第一、陰間わ持つ事など、坊主でもしていること。
私が陰間を持ったところで、誰に咎められることも無いし、ましてや智がそのような扱いをされる筋もない。
翔は再び沸々と湧き上がってくる怒りを鎮めるかのように、両手で掬った湯を顔に浴びせかけた。
さて…、そろそろ上がらないと、また智が寂しがる。
翔は湯から上がると、軽く水気を取っただけの身体に寝巻きを羽織り、智の待つ寝間へと急いだ。
ところが…
寝間に足を踏み入れた瞬間に聞こえてきた寝息に、翔の顔に笑みが浮かんだ。