第7章 猜疑と当惑に揺れる心
暫くじっと腰を落ち着けていると、川辺にしゃがんで手拭いを水に浸していた和也が、何か思いしたように「そういえば…」と口にした。
そして濡らした手拭いを翔に差し出した。
「済まないね」と翔は手拭いを受け取り、そう暑くもないのにしっとりと汗ばんだ肌にそっと当てると、ひんやりとした感触に、頭の中にかかっていた靄(もや)が、ほんの少しだけ晴れた気がした。
「潤の親父さんが言ってた、陰間ってぇのは、ひょっとして…」
和也が細い顎に指を当て、「いやぁ、でもなぁ…」と独り言のように呟き、何度も首を傾げる。
その様子に、翔は今にも掴みかかる勢いで顔を上げた。
「もしやお前、智を知っているのか?」
「い、いや、俺が見たのがその…智って子かどうかは分かんねぇが、あの雨の晩、潤の家の前でずっと立ってた子がいてさ…」
和也は言いながら記憶を遡った。
「そうだな、歳の頃は俺と変わんねぇくらいで、顔は…女と見間違えるくらいのべっぴんさんで、髪は長くて…そうだ、藍の着物を着てたっけ…」
智だ。
全てを聞くまでもなく、和也が見たと言う少年は、智に違いないと判断した翔は、思わず両手で頭を抱え込んだ。
「なんてことだ…」と。