第7章 猜疑と当惑に揺れる心
「それ…で?」
これまで感じたことの無い感情に、翔の声が自然と震えた。
ただ、翔の怒りがそこまでとは露とも知らない和也は、尚も淡々と話を続け…
ゆっくりと沈む陽が川面を赤く染め始めた頃、漸く腰を上げ、吹き付ける風に捲れた着物の裾を整えた。
「じゃ、俺行くわ…」
「あ、ああ、済まなかったね、時間を取らせてしまって…」
翔は和也に向かって頭を下げ詫びたが、そもそも先に翔を引き止めたのは和也の方なのだから、翔が詫びる必要は無い。
それでも予想に反して長くなってしまったのは、翔があれこれ話を聞き続けたせいでもある。
「構わないよ。どうせ今日はお呼びかかからないからさ。それよりあんた大丈夫かい? 偉く顔色悪いけど…」
和也が腰を屈め、俯いたままの翔を覗き込んだ。
「あ、ああ、大丈夫…だ」
差し出された和也の手を取ることなく、その場から立ち上がろうとした少年の足元がぐらりと歪んで、翔は再び石の上に腰を下ろした。
「おいおい、本当に大丈夫なのかい?」
「暫く休んでから帰ることにするよ」
家で一人待つ智のことは気にかかるが、とてもではないが真っ直ぐ帰れる自信がないと判断した翔は、その場にもう暫く留まることを決めた。
すると、小さく息を吐きながら、和也も翔の隣に腰を下ろした。