第7章 猜疑と当惑に揺れる心
その後も和也は淡々とした口調で話し続け、翔は時折身を乗り出しながらも、和也の話に耳を傾けた。
和也の話によれば、昌弘と潤が最後に翔の元を訪れてから、一週間程が過ぎた頃から、二人の間で喧嘩が耐えなくなり…
あれ程熱心だった仕事にも、潤は一切出向かなくなったと言う。
たまたま擦れ違った和也が、喧嘩の理由を尋ねてみたが、潤は口を噤んだままで、ただただ所構わず当たり散らしては、番屋の世話になることも度々だったと…
和也が、昌弘親子の喧嘩の理由を知ったのは丁度その後のことで…
「あの日は、晩に酷い雨が降って来てさ…」
和也の言葉に、翔ははっとして、咄嗟に和也の肩を両手で掴んだ。
あの日だ。
智がずぶ濡れになって帰って来たあの日…
「その日のことを詳しく教えてくれ」
「あの日は、二人の言い争う声が特に酷くて…」
「それで?」
「雨の音も凄かったし、雷も鳴ってたから、はっきりとは聞こえなかったんだけど、陰間がどうとかこうとかでさ…」
和也の口から出た〝陰間〟の一言に、翔は智が涙ながらに訴えた言葉を思い出していた。
「確か…、そうだ、あの子は陰間だから、今後一切近寄んじゃねぇって…。それから翔さん、あんたにもね」
翔は愕然とすると同時に、沸々と湧いてくる怒りの感情に手を震わせた。