第7章 猜疑と当惑に揺れる心
少年は「ここじゃなんだから」と、翔を少し歩いた先の河原へと誘った。
「君の名は?」
翔が振り向き座間に言うと、少年はくっと鼻を鳴らして笑い、それなら「俺は和也」と名乗った。
「和也…か。私は察しの通り、彫師の翔だが、私に何の用が?」
極めて淡々と、でも明らかな敵意を剥き出しにする翔に、和也はおどけた様子を崩すことなく…
「まあまあ、そう怖い顔しなさんなって」と言って、比較的大きめの石の上に腰を下ろした。
そして拾い上げた小石を川面に向かって投げた。
「俺、潤とは赤ん坊の頃からの、幼友達ってやつでさ…」
「潤坊…の?」
潤の幼友達なら、二人が今どうしているのか、知っているのかもしれない。
そう思った翔は、和也の横に腰を下ろすと、和也の口から発せられる次の言葉を待った。
「潤の奴、紋々入れたんだって、偉く自慢げでさ…。それって、あんたが彫ったんだろ?」
問われ、翔は咄嗟に首を横に振った。
「私ではない」と。
「色こそ入ってないが、あれだけ見事なもんもを彫れるのは、どこを探してもあんたくらいのもんだと思ったんだけど、違ったんだな」
和也は自身の立てた予想が外れたことに苦笑して、再び川面に石を投げた。