第7章 猜疑と当惑に揺れる心
余程言い難いことでもあるのか、智は数日寝込んだせいですっかり色の落ちていた唇をきゅっと噛み締めた。
「どうした、私には言えないことなのか?」
翔の問いかけに、智は言葉もなくこくりと頷き、翔の着物の襟元をきつく握った。
その手が微かに震えていることに気付いた翔は、智の額にそっと口付ける。
無理に問い詰めれば、もしかしたら智は口を開くかもしれない。
でもそれでは智を余計に苦しめることにもなり兼ねないと思った翔は…
「そうか、ならば仕方あるまい。でもな智? 誰が何を言おうと、お前は決して陰間などではないし、何よりお前は私の愛弟子だと言うことを忘れるな」
言い聞かせるように言い、今度は唇に口付けてやると、智の目にほんの僅かではあるが、生気が戻ったような気がした。
その後、智は少しづつ元の元気を取り戻し、笑顔を見せることも多くなった。
翔に任せ切りだったおすずの世話も、翔に言われればするようになり、時折縁側に出ては、おすずと何やら話をしている姿も見られるようになった。
そんな智の様子に、翔は当然のように安堵し、静かに見守り続けた。
ただ一つ…
いつまで経っても、絵筆を握ろうとしないことだけを除いては…