第7章 猜疑と当惑に揺れる心
暫く智を腕に抱き、すっかり艶を無くしてしまった髪を指で梳いていると、不意に翔の手を智が握った。
「お師匠さん…」
掠れた声で呼ばれ、翔は自身の手を握った智の手にもう一方の手を重ねた。
「なんだ?」
翔が聞き返すと、智は思い詰めた様子で瞼を伏せ、翔の手の中から自身の手を引き抜いた。
「陰間…だと…」
「え…?」
聞き返した翔の目が、驚きに見開かれる。
「私は、色を売る陰間だと…」
涙こそ流れてはいないが、そう言った智の声は酷く震えていて、翔は咄嗟に智の細い身体をきつく抱き締めた。
「誰がそのようなことを…?」
その問いかけに、智は首を横に振るだけで、答えようとはせず、その代わりに今にも零れ落ちそうに涙を溜めた目で翔を見上げた。
「違いますよね? 私は陰間などでは…」
とうとう流れ出した涙に、智の声が詰まる。
「ああ、勿論だとも。お前が陰間などである筈がなかろう…」
陰間の存在を蔑むわけでも、ましてや暇むつもりもないが、手潮にかけ、我が子同様に育てたきた智を、陰間と同等に扱われるのは、翔にとっては決して面白いことではない。
「そもそも、お前は身を売ったことなど、ただの一度だってないだろ?」
「それは…、でも…」
いいかけて智は、見下ろす翔の視線から逃れるように顔を背けた。