• テキストサイズ

T・A・T・O・O ー彫り師ー【気象系BL】

第7章 猜疑と当惑に揺れる心


「さあ、好きなように描いてご覧?」

まるで幼子に語りかけるように耳元で言うと、一旦は筆先を墨に浸したものの、そこから先に筆が動くことは一向になく…

「どうした?」

見兼ねた翔が問いかけるが、智は首を横に振るばかりで、ついには筆先が手から滑り落ちてしまった。

「一体どうしてしまったというのだ」


一度筆を握れば、寝食すら忘れて没頭していた子が、今ではどうだ…

まるで絵を描くことすら忘れてしまったようではないか…

一体何がお前をこのようにしたのか…


翔は自然に溢れ出た涙を脱ぐうこともせず、智を胸に掻き抱くと、悔しさからなのか何なのか、智の細い肩に顔を埋めて泣いた。

すると、墨で汚れた智の手がゆっくりと動き…

智よりもうんと大きく広い背中を、そっと撫で始めた。

「…めなさい…」

翔の耳に聞こえたのは、耳を澄ませなければ聞き取れないようなか細い声で…

「今、何て…」

驚き、咄嗟に涙を拭った翔は、智の口元に耳を寄せた。


もう一度…
もう一度聞かせて欲しい…


強く願う翔の耳元で、智の唇が微かに動き…

「ごめ…なさ…い…。私は… 」

聞こえたのは、一心に詫びる智の震える声だった。
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp