第7章 猜疑と当惑に揺れる心
翌日から、智は起きてはいるものの、目は虚ろで…
翔が話しかければ返事はしても、その顔に表情はなく、その様子にはまるで生気は感じられない。
それでも智は淡々と普段通りの家事をこなし、翔はその姿を黙って見守った。
ただどうしたことか、あれ程可愛がっていたおすずの世話だけは、存在すらすっかり忘れてしまったかのようで、翔に任せ切りになってしまった。
そして夜になれば、翔が望む望まない関係なく翔を求めた。
始めこそ翔も智に求められるまま応えていたが、それも三日も過ぎれば何かがおかしいと感じるようになり…
「今夜はこうして眠ろう」と、智を胸にしっかりと抱き瞼を閉じた…が、翔の胸で啜り泣く智に、翔は再び瞼を持ち上げた。
「どうした、これでは不満か?」
啜り泣く智に問うが、智は何も答えることなく、ただただ涙を流し続け、やがて泣き疲れて眠るまで、涙を流し続けた。
このままではいけない。
あの晩、智の身に何があったのかは分からないが、このままでは智が壊れてしまう。
その前に策を講じねば…
思い立った翔は、智の気が落ち着いている頃合を見計らって、智を文机の前に座らせた。
そして、智が愛用している筆を、元々華奢ではあったが、更に細くなってしまった手に握らせた。