第7章 猜疑と当惑に揺れる心
その甲斐あってか、翌日の朝目を覚ました翔は、智の額に手を宛て安堵の溜息を漏らした。
「良かった、下がってる」
昨日までの熱が、まるで嘘のように下がり、それどころかその日の昼を過ぎた頃には、智が目を覚ましたとあれば、翔の喜びはいかばかりか…
翔はあれこれ問い詰めたい気持ちを抑え、何度も冷めては温め直しを繰り返し、終いには作り直す羽目になった粥を、智の口元へと運んだ。
ところが…
「どうした、腹は減っていないのか?」
智はぼんやりと一点を見つめたままで、口を開こうともしない。
「では水でも持って来るとしよう…」
ずっと眠っていたせいで、腹も減っていないのだろうと思った翔は、粥の椀をその場に残し、立ち上がろうとした…が、着物の裾を捕まれ、咄嗟に智を振り返った。
「さと…し…?」
振り返った視線の先で、智は変わらず一点を見つめたまま、静かに涙を流していて…
翔は智を両腕で包むと、袂で濡れた頬を拭った。
「一体どうしたと言うんだ…」
問いかけるが、智は涙を長洲ばかりで、何も答えようとはせず…
もどかしい気持ちを抱えたまま、翔は智の背中を摩り続けた。
そうして智が再び眠りにつくまでを過ごし、その後も智の傍を片時も離れることが出来なかった。