第7章 猜疑と当惑に揺れる心
「済まなかったね、こんな時間まで…」
翔が玄関先で雅紀を見送った頃には、辺りはすっかり暗くなっていて…
「御用聞きの途中…だったんだよな? 良かったのか?」
仕事の途中で、しかもこんな時間まで道草を食っていたとあれば、雅紀が叱られるんではないかと案じた翔は、申し訳なさそうに何度も雅紀二向かって頭を下げた。
「かまやしないよ。大体、智の顔が見えないからって、様子を見て来いって言ったのは、おっ母だし」
「そうか、それなら良いんだが…」
雅紀の言葉に、翔はほっと胸を撫で下ろす。
「それより、心配だよな。もし、このまま熱が下がんねぇようなら、一度お医者に診て貰った方が…」
「ああ、私もそれは考えているよ」
ただの風邪なら良いが、もし達の悪い流行病だとしたらと考えると、気が気ではないのが翔の本音でもある。
「また様子見に来っからさ、翔の兄貴もあんまり無理すんじゃねぇぞ?」
「ああ、分かってるよ」
まるで子犬のように駆けて行く雅紀の背中を見送りながら、翔は吸い込んだ息を全て吐き出した。
そして庭の片隅に設えた祠に向かうと、両手を合わせ、智が回復すりことだけを熱心に願った。