第7章 猜疑と当惑に揺れる心
翌日になっても、そのまた翌日になっても、智の熱は一向に下がる気配がなく、翔はいよいよ町医者の手を借りるべきかと思い悩んでいた。
実際、智は幼い頃から身体だけは割と丈夫な方で、大病をしたこともなければ、これまで風邪を引くことはあっても、拗らせたことなど、翔が記憶している限り一度も無かった。
その智が何日も熱に魘されているとあっては、翔の心中も穏やかではいられない。
「どうしたものか、なあ…」
智の枕元に置いた鳥籠に向かい問いかけてみるが、当然のことながらおすずが返事をすることはない。
仕方なく翔は縁側から庭に出ると、竿にかけてあった智の寝間着と着物を取り込んだ。
それから土間に立ち、智がいつ目を覚ましても良いようにと、不慣れながらも鉄鍋に粥を作り木蓋を被せた。
智が寝込んでからというもの、何度もそれの繰り返しで、仕事も手につかなければ、そんな気にもなれい翔は、時折史机に向かってはみるものの、やはり思うような絵図が描けずにいた。
そして夜になれば、智の枕元に座り、手拭いを水に浸しては額に載せ続けた。
そんな日が三日も四日も続けば、翔の顔にも疲労の色が浮かび始めるのは当然で…
智が買い物に来ないことを案じ、御用聞きに尋ねた八百屋の倅、雅紀が驚く程に翔は疲れ切っていた。