第7章 猜疑と当惑に揺れる心
翌日、隣で転寝をしていた翔は、智の荒い息遣いで目を覚ました。
そっと額に手を宛ててみると、咄嗟に手を引っ込めたくなる程に熱く、寝間着は汗でぐっしょりと濡れている。
「あれだけ濡れたんだ、当然か…」
翔は手拭いと替えの寝間着を用意すると、ぐったりとする智を抱き起こし、汗で濡れた身体を拭き、寝間着を着替えさせ桶に汲んだ水に手拭いを浸し、きつく絞ってから額に載せた。
「一体どうしたというんだ…」
智はこれまで一度たりとも、夜半を過ぎて帰ることは無かったし、そもそも智が一人で出歩くことなど、近所の八百屋に行く以外にしたことが無い。
その理由を確かめたいところではあったが、こうまで熱に魘されていては、それも到底叶いそうもない。
翔は小さな溜息を落とすと、静かにその場を離れ、史机に向かった。
特に何もするわけでもなく史机に方肘を着き、ぼんやりと白んで行く空を見つめていると、良く眠れていなかったせいか、睡魔が襲って来るが、智のことが気がかりなしょは、両手で頬をぴしゃりと叩いて、襲い来る睡魔を追いやった。
そして史机の上に真新しい半紙を広げると、随分と使い込んだ筆を手に取り、何かを描き始めた。
ところが、納得の行く絵が描けない!のか、翔は半紙をくしゃりと丸めると、屑箱の中に放り入れた。