第7章 猜疑と当惑に揺れる心
心当たりのある場所は全て探した。
最悪の自体も考え、番屋にだって立ち寄った。
それでも智の姿はどこにもなく…
焦燥感に押し潰されそうになりながら、暫く辺りを探していると、ぽつりぽつりと雨が降り出し、徐々に強くなる雨足に、地面が泥濘始めた。
翔は羽織を雨避け代わりに頭に被り、一旦引き返そうと踵を返した。
あっという間にずぶ濡れになった着物は重さを増すばかりでなく、大股で駆ける足にも纏わり付く。
その上泥濘にも足を何度も取られ…
なんと忌々しい…
この上雷でも鳴ろうものなら、あの子は…
元々怖がりの智は、特に雷のあの天地を裂くような音を聞くだけでも怯え、身体を丸め耳を塞いでしまう始末だ。
今頃私を求め、一人泣いているかもしれない。
そう思ったら気が気ではなく、翔は一瞬足りとも足を止めることなかく家路を急いだ。
「智、戻っているか」
草履を脱ぐのももどかしく、縁側から直接板間に上がった翔は、そうたいして広くもない屋敷の中を探して回った…が、やはり智の姿はどこにもなく…
一体どこへ行ってしまったのだ…
翔は濡れた羽織を手にしたまま、肩をがかきりと落とし、その場にへたりこんだ。