第7章 猜疑と当惑に揺れる心
智は明くる日も、またその明くる日も…
縁側に座り、昌弘と潤が門扉を潜って来るのを、おすずと一緒に待ち続けた。
翔はその姿を、特に声をかけることもなく、史机に向い見続けた。
ところがある日、翔が買い付けから戻ってみると、屋敷中どこを探しても智の姿はどこにもなく…
近所の八百屋にでも出かけたのだろうと、特段不安に思うこともなく、買ったばかりの顔色を小瓶に詰め替えた。
そして大量に買い付けた針を、それぞれ用途に合わせて束ねようとするが、手先の不器用な翔は、智の助けがなければ時間が倍程かかってしまう。
「智、少し手伝ってはくれないか」
翔は無意識に智を呼ぶが、智の返事はない。
外は既に茜色に染まっており、普段なら夕餉の支度に追われている時刻だ。
こんな時刻になっても智がいないのは、どう考えてみてもおかしい。
翔は羽織を手に取ると、草履を履くのももどかしく、家を飛び出した。
智が立ち寄りそうな場所を隈なく探し、声をかけて回るが、どこにも智の姿はなく、立ち寄った様子すらない。
智の身に何かあったのでは…
翔の胸に不安が過ぎり、額と、固く握った手は、嫌な汗がじんわりと浮かび始めた。