第2章 艶やかなる牡丹の如く
師匠と呼ばれた男は、所々墨で汚れた手で湯呑みを取ると、口元に運び静かに傾けた。
そして、その様子を伺うように見つめる青年に向け、目を細めた。
「相変わらず智の淹れた茶は美味いな…」
満足気に言って、空になった湯呑みを茶盆に戻すと、視線を再び床に横たわる大柄な男に向け、背を覆う晒布の両端を指で摘み上げ、そっと捲った。
そして肩から尻にかけて描かれた昇龍を指の先で一撫でして墨の乾き具合を確かめると、智に向かって一つ目配せをした。
師匠の意を瞬時に悟った智は、傍らに置かれた籠から綺麗に畳まれた着物を取り出すと、至極丁寧な所作で横たわる男の枕元に置き、
「お疲れ様でございます」
長い黒髪で畳に流線を描き、三指をついた。
男はきりきりと痛む背に顔を顰めながら、のろのろとした動きで身を起こすと、その場に胡座をかき、肉付きの良い手で智の髪を掬い、顔を覗き込んだ。
「こいつぁ驚いた。近くで見ると、益々女子(おなご)のようじゃねぇか」
男は心底驚いたように目を丸くすると、今度は智の顎に手をかけ、厭らしく舌なめずりをした。
「翔さんよ、あんた一体全体どこでこんな上玉を?」
言いながら、男が智の腕を引き、どっぷりとした腹に抱え込んだ瞬間、翔の眼光が鋭く光った。
智を、そこら辺の陰間か何かと勘違いされたことに、腹を立てたのだ。