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T・A・T・O・O ー彫り師ー【気象系BL】

第2章 艶やかなる牡丹の如く


「お師匠さん、お茶をお持ちしました」

縁側に面しているというのに、僅かな光さえも通さない障子の向こうから、鈴の音の様な声がする。

師匠と呼ばれた男は手にしていた針束を道具箱に仕舞い、たすき掛けにしていた袖を解くと、唯一の明かりでもあった行灯の火に息を吹きかけた。

そして束の間、墨の匂いが立ち込め、闇に包まれる中で、

「入りなさい」

声のした方を振り返ることなく言うと、ゆっくりと…、僅かな物音を立てることなく障子が開き、闇を裂くように光が差し込んで来て…

「失礼致します」

三指を着き、額が縁側の板に擦り付く程に頭を下げ、まるで舞でも舞うかの様な優雅な所作で、腰まで伸びた長い髪を揺らし、藍の小袖を纏った女人とも見まごうばかりの面差しの青年が、茶盆を手に作業場に入って来る。

湯気の立つ湯呑みを茶托に載せ、袖にそっと手を添え、床に俯せたままの枕元と、師匠と呼ばれた男の前に置く姿は、やはり舞を舞うような優美で優雅な仕草で…

「成程…、噂には聞いていたが、こいつぁ上玉だ」

露にした背に晒布をかけられ、床に伏せていた男は、ちらと青年を見やると、感嘆の声を漏らした。

ところが、青年は床に伏せる男には目もくれず、はたまた礼を述べるでもなく、膝頭を師匠に向けると、色白の頬を綻ばせた。
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