第6章 白き手指で描かるる流線
くすん…と、智が鼻を啜る音が聞こえ、はっと我に返った翔は、ふと智の顔を見下ろした。
「さと…し…?」
身体の締め付けを解き、そっと髪を撫でてやろうとするが、その手は見事に払われてしまう。
「そんなに嫌だった…か?」
「嫌です。このようなのは、私は嫌…」
両手で顔を覆い、しくしくと涙を流す智に、翔はどうしたものかと頭を悩ませ、再び髪を撫でてやろうとするが、智はいやいやをするように頭を振ってそれを拒んだ。
こうなると、翔が何を言ったところで智が受け入れることはなく…
仕方ない…
翔は智の気が落ち着くまで智の背を撫で続けた。
そうするうち涙も止まり、智はまだ乾ききらない目で翔を睨みつけた。
「すまなかった。お前がこれ程嫌がるとは思わず、戯れが過ぎた」
翔は智に詫び、目尻に溜まった涙を指の腹で拭った。
「もう…なさいませんか?」
「ああ、しない」
「約束…ですよ?」
「ああ、約束だ。だから、もうそのような顔をしないでくれないか」
翔に頭を下げられ、智は翔に向かってすっと小指を差し出し、そこに翔も小指を絡めた。
そしてゆっくりと顔を寄せ合うと、互いの唇を重ねた。
「おすずが心配ではなかったのか?」
翔に言われ、一瞬縁側に視線を向けるが、おすずの囀る声に安心したのか、もっと…と口付けを強請った。