第6章 白き手指で描かるる流線
結局、智が目を覚ましたのは明け方ちかになってからのことで…
いくら疲れていたとはいえ、私としたことが夕餉の支度もせず…
お師匠さんも、さぞかしお腹を空かせておいででしょうに…
隣で眠る翔に心の中で詫び、智は羽織を肩にかけ、静かに床を抜け出そうとする…が、突然手首を捕まれ、智は驚きのあまり身体を跳ねさせた。
「起きておいででしたか…」
「ああ、お前の愛らしい寝顔を見ていたら、つい寝そびれてしまってな」
「起こして下されば良かったのに…。お人が悪い…」
智は羽織の襟元を胸の辺りまで引き寄せると、ぱちりと開いた翔の目から逃れるかのように、赤くなった顔を背けた。
「おなかがお空きでしょ、直ぐに朝餉の支度をしますから…」
言いながら床を出よ打とした智の手を再度翔の手が掴み、強引に引かれた智は、あっという間に翔の腕の中に引き込まれてしまう。
「お師匠…さん?」
「飯ならまだ後で構わん」
「で、でも…。あ、そうだ、おすずの餌をやらないと…」
あれこれ理由を付け、床から出ようとする智だが、当然翔がそれを許す筈もなく…
「おすずの餌なら、私がやっておいた」
「まあ、お師匠さんが? おすずは無事かしら…」
感謝されることはあっても、まさかおすずの無事を心配されるとは思っていなかった翔は、更にきつく智を抱きしめた。