第6章 白き手指で描かるる流線
智が深く寝入ったのを確かめ、翔は静かにその場を離れた。
古い道具箱を手に、縁側に座った。
道具箱の中には、もう使わなくなった針束やら、道具の類が入っており、翔はその中から煙管(きせる)を取り出した。
火皿に刻みを乗せ、行灯から分けた火を点ける。
智が嫌がるからと、智の前では滅多に吸うことはないが、一仕事終えた後などには、こうして煙管を吸うのが、翔の密かな楽しみでもある。
翔は煙を燻らせながら、ふと小さな籠の中で囀る雀に目を向けた。
「おすず…だったか? お前にも餌をやらないとな…」
普段は智がおすずの面倒を見ているが、その智が寝てしまった以上、翔が面倒を見る他なく…
翔は煙管を手にしたまま、鳥籠の横に添えてあった小さな壺から、おすず用の小皿に粟の実を少し乗せ、水で浸した。
「ほら、たんとお食べ」
小窓から小皿を籠の中に入れ、おすずの口元まで運んでみるが、どうしたことか、おすずは餌に見向きもしない。
どうやら、おすずは智の手からでなければ、餌を食べることはしないようで…
「やれやれ、困ったものだな」
翔はがっくりと肩を落とすと、籠の中に小皿だけを残し、自身の手を引き抜いた。