千銃士【Noble Master Project】R18
第8章 英雄の狂乱
「ラップ、ちょっといいか」
基地に戻ってきた翌朝、私は恭遠に呼ばれました。
作戦室ではなく、恭遠の私室に招かれた私は、おそらく誰かに聞かれたくない話をされるのだろう、と予想しましたが…その予想は当たっていました。
「マスターの…Noble Kissの件だ」
「……あぁ、あれですか」
マスター自身が癒されなければならないことはよく理解できます。事実、それができずに我々は前マスターを失ったわけですから。
しかし、方法が……一人の女性を沢山の男がかわるがわる…というのは、些か娼婦のようで…どうも解せずにいたのです。
当初それは陛下も同意見でした。
ところが
「実は、次のNoble Kissに、ナポレオンが立候補したんだが、知っているか?」
「えっ…?」
陛下は「いくらマスターの役に立つとはいえそのような下劣な方法を取るのはいかがなものか」と眉をひそめていたのです。
なのに。
「一体、どういうことなのでしょう」
「それは俺が聞きたいくらいだ…。しかし、マスターは今回のドイツ組の4挺を召喚し、少し消耗している…できれば今日明日中には一度回復をしてもらいたいところなのだが……その」
言い淀みながらも恭遠は続けました。
「……ナポレオンは、あのような調子だろう?その……女性経験というか、Noble Kissが成立するのか些か心配なんだ…」
「なるほど」
恭遠の言わんとしていることは理解できました。
つまり、陛下はご自身のことを「皇帝ナポレオン」だと信じている節がある…そのため、高圧的な態度を取り、マスターに奉仕を強いるような行為に及んだり……と、かえって傷つけてしまうような事態にならないか?という懸念があるということでしょう。
分かります。私も恭遠と同じ立場であったなら、同じ思考に辿りつきます。
「……どう思う?ラップ」
「そうですね…それとなく、陛下に尋ねてみます」
「頼めるか?もしナポレオンが無事Noble Kissを行えそうならそれで構わないのだが…」
私は恭遠に頷き返し、そのまま陛下の元へと急ぎました。