千銃士【Noble Master Project】R18
第7章 鷹狩り
沙優が怖がらないよう、先ほどより速度を抑えてイエヤスは馬を走らせる。
「マスター」
「ん……?」
「その……つらくは、ないか?」
「あ、大丈夫だよ。このくらいの速度なら」
「いや、馬のことではなく……」
言いよどみながら、イエヤスは続ける。
「例の、夜枷のことだ」
「…あ……うん…」
「……あなたの力が回復するとはいえ、負担が大きすぎるのではないかと…案じている」
沙優の前に回されたイエヤスの手に、ぎゅっと力が込められる。
「……イエヤス、私ね…恭遠さんに助けてもらう前、売られて…いろんな場所を転々としてたの」
沙優の中に、思い出したくない記憶が込み上げてくる。
「私の外見は…珍しいから……無理やりいろんなことをやらされたりもしたの」
「……っ……」
「あの頃に比べたら、今は全く辛くないよ。みんなマスターって私の事慕ってくれて、大切にしてくれて……何より、レジスタンスの役に立ててるから」
馬がゆっくりと走るのをやめる。
やがて完全に馬が止まり、風がひゅうと吹き抜けた。
「……イエヤス…?」
「……っ………」
イエヤスの両腕が、沙優の身体を後ろから抱きしめた。
肩口に埋められたイエヤスの額からぬくもりが伝わる。
「……強いな、あなたは」
「………」
抱きしめる腕に、力が込められる。
「俺は、これから先もずっと…あなたと共に在りたい」
「えっ………」
まるでプロポーズのような言葉に沙優は顔を赤らめた。
「あなたに…この身を捧げ、生涯お仕えしたいと思える」
(っ……そ、そういう意味だよね)
貴銃士の忠誠心。
分かっていたはずなのに、少し寂しい気持ちになるのは何故だろう。
「………沙優」
「……えっ?!」
一瞬、名前を呼ばれ振り向く。
「い、今……私の名を…」
振り返り見上げると、イエヤスは微笑みながら
「……呼んではいないが?」
と、静かに答えた。
イエヤスが再び手綱を握り、馬はゆっくり歩き始める。
彼の腕から伝わる熱は、先ほどよりも温かく優しく沙優に伝わるのだった。