千銃士【Noble Master Project】R18
第3章 イエヤス(R18)
沙優はゆっくり目を開いた。
そこには、今にも涙を零しそうなほどに苦しげなイエヤスの顔があった。
沙優は笑う。
「イエヤス…」
こんなにも、私のことを大切に思ってくれているならば…あの日々よりはましだ。
奴隷として、金持ちの家を渡り歩いていた数年前。
人としての尊厳を無視され、様々なことをやらされた日々。あの日々のあいつらよりは……。
「………いいよ」
「……え…」
イエヤスの瞳が丸く見開かれる。
「あなたたちから、Noble Kissを受け取れば…私は回復して……貴銃士たちに多くの力を注げる。そうすれば……レジスタンスにも勝ち目があるんだよね…。私、いいよ。受け取るよ」
「でも……でも、マスター…それで本当にあなたは…いいのか…?……しかも…その」
「?」
イエヤスは視線を泳がせながら少し頬を染めると、小さな声で言った。
「………お………俺で…いいか…?」
「っ………」
そんな言い方をすると、こちらまで恥ずかしくなってしまう。
「……うん…」
熱の引かない頬に両手を当てながら、沙優は頷く。
するとイエヤスは、珍しく長い溜息をつくと、意を決したように沙優を捉えた。
「先に言うが……こういった経験がないゆえ…粗相があったらすまぬ…」
「っ……わ、わかってるよ……大丈夫、です…」
(そもそも人間になったのも久しぶり、というか……そういう経験がないのなんて当たり前だよね)
緊張しながら微かに震えるイエヤスの胸板に、そっと手を当てた。
早鐘を打つ心臓の鼓動を感じながら、沙優は告げた。
「初めて召喚したのもイエヤスだったから……初めてのNoble Kissは、イエヤスが…いい」
「マ、スター……」
イエヤスの、静かな瞳がそっと伏せられ迫った。
柔らかな唇が触れ合い、また離れる。
「……はぁっ…」
熱い吐息がかかり、再び塞がれる。
「っん……ん……」
啄ばむように、ゆっくりと…角度を変えて唇を食まれる。
離れる度にイエヤスの吐息を感じ、やがて彼の指先が沙優の手に重ねられた。
「っはぁ……」
一度離れ、顔を覗きこまれる。
目が合うと、イエヤスの瞳から冷静さと余裕が全くなくなっていることに気付く。