第12章 疑惑中。
一瞬、心臓の動きが止まった。
いや、そんな気がしただけだけど、動悸が不規則になっている。
「···私が? ···いつ···?」
目の前が灰色になっていく。
血液が消えていくみたいに手足の先が冷たい。
でも、それよりも冷たい勝己くんの視線。
射殺すように、向けられている視線。
「お前が言ってる、その雨の日···俺は、マジでお前の家に行ったんだよ」
「え?」
そうだったの···?
「だけど、俺が行ったとき、お前は家の前で誰かと楽しそーに話してたろ。···そんでそのまま家の中に入ってった」
「···え?」
それって···
「お前の方こそ浮気だろーが、クソが···。
···その後のことは自分でもあんま覚えてねぇよ···どっかの店にでも行っただけだ」
舌打ち紛れに発せられる言葉。
眉間のシワがより一層深く刻まれている。
その顔を見ていると、あの日のことが鮮明になってきた。
───そうだ、あの日は···確か弟が来ていた。
弟もどこかの高校のヒーロー科らしく、生傷をつけながら家へやって来た。
『え、何してんの、あんた···』
『痛ェ···今日実習でやっちまったんだよ。雨宿りさせてー』
『あっコラ、勝手に入るな』
雨宿り、と言っても、数十分居させてあげて、あとは帰らせた。
短い時間のことだったから、忘れていた。
でも···そっか。
その一部始終を見てた勝己くんは、私が家に男を連れ込んでるって思ったんだ。
···それは···
「···それは、ごめんなさい···」
あれは弟だったの、と告げた。
もう、その時の勝己くんの顔と来たら。
見たこともない顔をしていた。
「···弟?」
「そ、そう···弟」
あ、そういえば弟も高校1年生だ。
もしかしたら、勝己くんと面識があるかもしれない。今度訊いてみよ。
「···で、その···浮気は···?」
「あるわけねぇだろ」
「···そっか」
「はん」
食い気味に即答された。
即答への驚きと共に、嬉しさが込み上げる。
勘違いだった···ってことでいいんだよね?
ほっと胸を撫で下ろしていると、背中に重みを感じた。
「···?」
勝己くんがのし掛かっている。
「どうしたの」
「さっきの···撤回しろよ」
「え?」
不機嫌そうな瞳が私を映す。