第12章 疑惑中。
勝己くんの目の色が変わったような気がした。
その口が開く前に、また告げる。
「いい加減にして。女遊びするのは勝手だけど、私を巻き込まないで。そういうことして、私を繋ぎ止めようとしないで」
息切れがする。
そこまで長く話したわけでもないのに、動機と息切れがすごい。
顎を掴んでいた勝己くんの手が緩む。
眉間にシワがない寂しそうな顔は新鮮で。
私はこのとき初めて、彼に近づけたような気がした。
「···は?」
「言っとくけど、私はそこまであんたに執着したいわけでもないから。遊ぶなら他所でやって」
「···本気で言ってんのか、それ」
「え?」
───背中に衝撃を感じた。
握られた手首が熱くて痛い。
ヒリヒリする背中と、俯瞰した目で見つめてくる瞳。
背筋がぞわっとした。
「···遊びか」
「!」
唾を呑み込む。
その覇気も何もない目は、私じゃない何かを見ているようにしか見えなかった。
顔が近づいてくる。
必死に顔を背けながら、勝己くんを拒む。
だけどその唇は、露になった首筋に這わされた。
「っ···」
きつく噛みつかれるような感覚。
これ···痕をつけられてる?
「やめ···っ」
心臓がバカみたいに鳴る。
拒まないと。
やめてって、突き放さないと。
いつもみたいに、流されるのはもうやめにしたい。
「ッ···、離、れて···ッ!!」
力の限り突き飛ばした。
と言っても、彼と私の力の差では、そこまで突き飛ばせなかったけど。
少し距離が開いたのを良いことに、私は後退りする。
勝己くんの目が、元の色に戻った気がした。
「···何がしてぇんだ、お前は」
「何それ···」
こっちの台詞だ。
酷い。なかなか酷い男だ。
自分の事を棚にあげて、何で理解不能みたいな顔してるのよ。
ふつふつと心の底が沸騰していく。
「こっちが訊きたいよ···なんで···なんで、人の心で遊ぶの!?」
「は?」
「酷いよ···やっと、信じられる人に出会えたって思えたのに···そう思ってた私がバカだった」
涙が溢れて視界を埋め尽くす。
勝己くんが無意識のように手を伸ばしてきたけど、痛む心臓を無視して振り払った。