第12章 疑惑中。
───今の一瞬、勝己くんが怒ってるように見えた。
それが、少し怖くて。
でも、追いかけて来ないところを見ると、やっぱり怒ってるんだろうな、呆れていたんだろうなって思えた。
惨め。
私は、こんなにも惨めだ。
家の近くまで全速力で走って、近くの電柱に手をつく。
息を整えないと本気で死にそうになった。
喉の奥が干からびて血の味がする。
乳酸が降りてきて足が重い。
痛い。足も、どこもかしこも。
心臓も、チクチクする。
涙が込み上げてくる。これは、生理的なものなのか、感情的なものなのか。
勝己くん、あなたが分からない。
私は、どうすればいいの。
行き場も何も無い私のこの気持ちは、どうしたらいいの。
───あーあ。
小さい頃は、自分がこんな惨めな恋をするなんて思っても居なかった。
もっと、キラキラな輝かしい恋をするものだと思ってた。
昔の、純粋な頃のあの瞳に戻れたら。どれほど良いだろうか。
汚い現実世界も、淀んだ社会も、痛い気持ちも、全部知らないままで居れたのかな。
涙が込み上げてくる。
誰か。
私の、このぽっかり空いた穴を埋めてくれる人は居ないの?
───そこまで考えて、我に帰る。
···私今、何を考えた?
『誰か』って···?
勝己くん以外の人を、考えたの?
···私の方こそ、浮気じゃないの?
誰でもいいなんて、そんなビッチ臭いこと考えたの?
自分が末恐ろしくなる。
怖い。勝己くん以外の人を求めた自分が──。
息を整えて、部屋に入る。
汗で張り付くTシャツを脱ぎ捨てた。
シャワーを出せば、立つ湯気。
その中に染み入るように、壁に背を預けた。
···もう少しで、約束の第2土曜日。
私は、勝己くんに合わせる顔があるんだろうか。