第10章 突撃中。
じんじん痛む背中。辺りを包む外気。
子供のように、私のお腹に顔を埋めるその子。
「‥‥‥ちょっと‥‥」
お腹はやめて欲しい。ちょっとくすぐったいし。
腕をぺしぺしと叩いてみるが、まるで効果なし。
ぐりぐりと額を擦りつけられたんじゃ、堪ったもんじゃない。くすぐったい。
笑い出しそうになるのを堪えながら、そのトゲトゲ頭を優しく撫でた。
「‥‥忘れ物しないでよね」
「‥‥‥」
返事をするように力が強まった腕。
本当に子供みたいだ。駄々を捏ねてる子供みたい。
「‥‥‥ねぇ、雄英って大きいね」
返事なし。まぁ、分かってたことだ。
「あそこで毎日勝己くんが頑張ってるんだって思ったら嬉しかった」
行けて良かったって思った。
「勝己くんの事を、よく分かってなかった。
‥‥私、本当にあなたのこと応援してるから、」
本当に、愛してるから、
「‥‥勝己くんはここに来ちゃいけないって、伝えるべきだった」
上げられる顔。
酷く歪んだその顔は、目の奥が黒く暗く霞んでいっているような気がした。
‥‥悲しそうな顔。
でも、これしか、私には出来ない。
「‥‥またそんなこと言うんか」
「え?」
重く開いた口は、また静かにきつく閉じて。
眉間のシワが大変なことになっているその表情が、近づいてくる。
触れそうで触れないその距離で、彼は告げる。
「嫌なら突き飛ばせよ」
───出来るわけない。
突き飛ばすなんて出来ないから、わたしはゆっくり後退りした。
勝己くんの下から抜け出して、部屋の奥に戻る。
‥‥‥危なかった。
今‥‥‥すごく顔が熱い。
こんな顔見せたら、また調子に乗られる。
また私を頼ってきてしまう。
それじゃ本末転倒だ。わたしは、彼が一人でも生きていけるような強い人になって欲しいのに。
何気なくテレビのリモコンを手に取った瞬間、追突されるような衝撃があった。
「───あ‥‥」
リモコンが床で跳ねる。
それを目で追うことも出来ず、私の視界は勝己くんで一杯になった。
「‥‥っ‥‥‥はっ‥‥ん」
荒いキス。
大体苛立ってる時はこんなキス。
一秒でも早く、自分のものにしようとしてるキス。
それにいつも溺れてしまう私。
今も、瞬く間に全身が火照って、瞼が重くなった。