第9章 訪問中。
「あ、あの! 勝己く‥‥勝己は、私といとこでして!」
「いとこ?」
「はい! 丁度、家にお邪魔してたときに忘れ物をしていったものですから‥‥」
「‥‥なるほど。親戚の人なんだね」
「はい‥‥」
おお‥‥信じてくれたか?
意外といけそう‥‥か?
「爆豪くんの両親以外の人間には会ったことがないから、日頃どういう人間なのか知りたいのさ」
「どういうって‥‥」
見たまんま。
「‥‥学校と同じかと‥‥」
「‥‥そうなんだね」
この人は、勝己くんの何を知りたいんだろう‥‥。
頬杖をついて何かを考えていた校長先生は、やがて私の目を真っ直ぐに見つめて告げた。
「爆豪くんは、オールマイトへの憧れ‥‥というか、執着が強いのさ。そして、同じ人間に憧れている、幼馴染みにも」
「幼馴染み‥‥?」
「敵対心に混ざって、不安が見え隠れしているのさ。
『いつ置いていかれるのだろう』
『いつ自分は倒されるのだろう』
というね」
‥‥‥驚いた。
あんなに自信過剰な勝己くんが、実はジレンマを抱えながら生きていたなんて。
校長先生は、笑顔を絶やさず続ける。
「その敵対心と不安がぶつかり合って、時に周りが見えなくなってしまう。
それを、我々は防ぎたいのさ」
ヒーローとして、在ってはならないものだと。
そう、告げた。
劣等感やジレンマ、暗闇の中の前が見えない恐怖。
一番、一番怖いのは、他でもない、ヒーロー自身なんだ‥‥
「支えられる所は、支えてあげて欲しいのさ」
───校長先生に話してもらえるまで、私は何も分かっていなかった。
ただ、『頑張れ』を言うことしか出来ないのだと思っていた。
でも、違う。
『頑張れ』が、一番嫌な、一番皮肉な言葉だったんだ。
校長室を出ると、事務室に居た若い女の人が立っていた。
「渡しておきました」
「あ‥‥ありがとうございます」
「こちらへどうぞ」
誘導されて、昇降口まで案内してもらった。
「お世話になりました」
「また何かありましたら、お申し付け下さい」
校舎を出て、青空を全面に映した建物を見上げる。
さよなら、雄英。いい機会だった。
私が居るべき場所じゃないんだ。
ありがとう、勝己くん。
私、覚悟が決まった。