第1章 仕事中。
「ごめんね、休憩中‥‥」
「いえ‥‥どうしました?」
「ドリンクバーこぼしちゃった人が居るらしくて‥‥対応してくれる?」
「あ、はい!」
急いで休憩室を出る。
階段横のドリンクバーフロアでは、小さな男の子と‥‥あの爆豪さんが、何ともまぁ、修羅場のような状況で固まっていた。
「大丈夫ですか?」
男の子、今にも泣きそう。
そんな殺すような目をしないで下さい
って、言いたかったけど、言えない言えない。
「チッ‥‥」
持ってきたおしぼりで床を拭く。
辺りをコーラの香りが漂った。
「君、お母様は?」
「お‥‥お部屋‥‥」
「このお兄ちゃんに謝った?」
フルフルと首を横に振る男の子。
まぁ、こんな鬼の形相には言葉も出ませんよね‥‥
「じゃあ、謝って、お母さんのところに戻っていいよ」
「うん‥‥」
私の制服の裾を握り締める男の子。
かわいい。
怖いよね、私も怖い。
爆豪さんは、じっと男の子を見つめている。
「‥‥‥ごめんなさい‥‥っ」
「あっ」
言った直後、走り去った男の子。
よくぞ言った。言えただけでも立派よ。
心の中で男の子に拍手を送って、爆豪さんの方を見る。
「‥‥‥あ‥‥」
制服に‥‥アイスが‥‥
「‥‥チッ、冷ぇんだよ、さっさとしろ」
なっ、
「なにその言い方!?」
なにその言い方!?
やってもらう側で!? 何それ!?
これはもう、店員、お客の立場じゃなくて。
人間性の問題だ。
ビキビキ‥‥と目尻が吊り上がっていく爆豪さん。
「‥‥あ"ぁ?」
でも、なんだか、怖くない。
だって、おかしいのはそっちだもの。
「こっちは、貴重な休憩時間削って対応してるの‥‥遊んでるあなたほど、暇じゃないのよ」
「テメェ‥‥」
‥‥あぁ‥‥やっちった‥‥
これはもう‥‥クビだな‥‥
でも、もう後には引けないし‥‥
「『ありがとう』の一言も言えないの?」
過酷な接客業で、お客様の『ありがとう』はすごく元気になる。
ありがとうって、偉大。
「バカかよ」
「え?」
でも、返ってきたのはキツい一言。
この人、人間としてどうかしてる。
悪く言えばクソの下水煮込みみたい。
「んな事言ったのバレたら厄介になんのお前だろ。もっと後先考えろや」
「なっ‥‥」
確かに、後先考えてない行動だけど‥‥