第7章 伺い中。
「恵まれてたのよ、あいつは」
「‥‥羨ましいです」
「そうね。私もちょっとだけ羨ましかった。でもね」
夕日が影を伸ばす。
お母様の次の言葉を、じっと待った。
「‥‥恵まれてるが故に、挫折を知らない。それって、人生最大の欠陥だと思うんだよね」
「挫折?」
「ヒーローなんて、挫折の繰り返しじゃない。勝己はメンタル弱っちいから、雄英に鍛えてもらわないと」
「メンタル‥‥弱っちいんですね‥‥」
確かに、弱っちいというかみみっちいというか‥‥
ちょっと女々しいところありますね。
「‥‥だから、支えてやって欲しいの」
「‥‥‥」
驚いた。
てっきり、遠回しに「勝己はやめて」って言われてるのかと思っていた。
いつのまにか、思考がネガティブになっていたようだ。
「‥‥自信ない?」
「! いえ! ‥‥私もメンタル弱っちくて、支えてもらってますから‥‥
‥‥私も、か、勝己くんのヒーローに‥‥なりたい、です」
うわ、クサイ台詞。
だけど、これが本心だった。
ヒーローのヒーローになれる人は、きっと、こんな面倒くさい人間じゃないんだろうけど‥‥
私なりに、力になりたい。
「いいわね、なれるわよ」
「そうですかね‥‥」
こんな人間が? 大丈夫ですかね‥‥
──突然、お母様が立ち止まった。
見上げると、大きな建物。
表札には『爆豪』。
‥‥爆豪さんの家だ。
すごい。大きくて、綺麗。
育ちの良さがモロに出てる。
「はい! 入って」
「! お邪魔します」
綺麗‥‥何度も言うが、育ちの良さがモロに出てる。
ここで、育ったんだな。‥‥ああいう人格に。
リビングに誘導されて、ソファーに腰かけた。
出して頂いたお茶で、渇ききっていた喉を潤す。
「へぇー勝己にこんな美人がねー」
「!? びじっび、美人!?」
美人ッ!? 生まれてはじめて言われたけど!?
お茶が気管に詰まりそうになってしまった。
子は親に似るんだな‥‥爆弾発言はお母様譲りだったのか‥‥
「あいつ、本当に人の事を考えてない奴だから‥‥困らせてるでしょ、ごめん」
「いやいや! ‥‥すごく、」
───『証明してく』
「‥‥大人で、カッコいい人です」
あんなこと言ってくれた人、同い年でも居なかった。
年下の男の子に言われるなんて、想像もしていなかったのに。