第6章 思案中。
爆豪side────---
ぱっちりと目が覚める。
クリアになった頭と視界が、『ここはどこだ』と告げた。
あー‥‥っと‥‥、俺、あいつの家来て、そんで‥‥寝たのか。
だが、見渡す限り、この部屋の家主は居ない。
顔を埋めたクッションは、僅かに玖暖の香りがした。
「‥‥あ、おはよう。もう7時だよ」
「‥‥‥」
もう一度目を開けたとき、部屋は電気が点いていた。
あー‥‥っと‥‥あれから一時間‥‥二度寝しちまったか。
「帰る? あ、夕飯食べてく?」
「‥‥食う」
むくりと起き上がると、肉の良い匂いが漂ってきた。
この匂い‥‥『秘蔵のタレ』か。
あれ旨いんだよな。何にかけても旨くなる万能調味料。
「はい! 焼き肉ー」
「おー」
手を合わせて、箸を持つ。口に入れた瞬間香ったタレの甘辛さが、さらに食欲を掻き立てた。
「旨い」
「よかったー」
味付けがあいつの母親と似ている。やっぱり親子は似るもんだな。
立ち上がって皿洗いを始めた玖暖に、背中越しに訊いてみる。
「さっき、どこ行ってたんだ?」
「‥‥‥え?」
ついさっき。俺が起きたとき、こいつは居なかった。
どこをほっつき歩いてんのか知らねぇが、勝手にいなくなんのは癪に触る。
「ンだよ、言えねぇ所かよ」
「‥‥‥うん。‥‥言えない」
湯気で前が見え辛い。
「‥‥‥は?」
こんな言葉しか出ないことが情けない。
やっと見えたそいつの顔は、どこか嬉しそうだった。
沸々と、何かが沸き上がってきた。
「‥‥‥は? ‥‥ッざけんな」
「え? ───ちょっ、」
立ち上がり、玖暖の横に移動する。
そして、腕を掴んで力任せにぶっ倒した。
「ちょっと──な、何すんの!」
「っるせぇ‥‥黙れクソカス」
「クっ‥‥!?!?」
あーおかしい。今の俺はおかしい。
何故か無性に腹が立つ。今すぐこのへし折れそうな腕を爆破したくなる。
沸々と沸き上がる、この感じ。
こいつに個性なんざ使いたかねぇが、仕方ねぇ。
俺のもんだって分からせて、───────‥‥‥?
「‥‥離して‥‥」
突然、瞼が重くなってきた。
意思と反して、眠気が増幅していく。
「ッ、テメ‥‥」
───意識を手放す一瞬、そいつの顔は悲しそうに見えた。