第4章 和み中。
「い‥‥いただきます」
「召し上がれー」
棒読み怖い。
熱々のシチューを冷ましていると、目の前で声が発せられた。
「‥‥玖暖な、男のこと詳しくないんよ」
「‥‥‥」
「ぶふッ」
それ言う必要ある‥‥?
ハラハラしている私を他所に、真剣な眼差しで語り始めるお母さん。
「初めての彼氏とは自然消滅らしいし‥‥次に出来た彼氏はクソッたれ浮気野郎やったし」
「‥‥‥」
あの頃のことが鮮明に思い出される。
中学生の時。中高生の恋なんて線香花火だってよく言われるけど、確かにそうだった。
というか、灯ってさえいなかった恋だった気がする。好きって気持ち、お互いあったのかな。
高校生の時のテニス部の彼氏。本当にあいつはクソッたれ浮気野郎だった。
三股してたクソッたれ。
それが発覚したのが告白された三日後。早すぎて笑える。もっとうまくしろやって思った。
その都度その都度、お母さんは泣きじゃくる私の話を聞いてくれた。
何に泣いていたのかどうか、今となっちゃよくわからない。
「だからな、もう悲しませたくないんよ。
別に、怒るとかやないから、浮気してるんなら離れてくれん?」
「ちょ‥‥」
直球すぎるでしょ。さすがに引かれるわ‥‥
と思って見上げた爆豪さんの顔は、やっぱり涼しげで。
「‥‥俺の女、です」
「!」
「‥‥へぇ」
───《逃がさねぇって決めた》
あの言葉、本当だったのかな。
熱々のシチューのせいか、前がぼやける。
あれ、かっこよく見える。変だな、ぼやけてるからかな。
「こいつの過去とか、そういうの知らねぇけど‥‥そいつらと俺は違う」
頬を涙が伝う。
ぼやけた視界は、涙のせいだった。
あー‥‥困ったな。かっこよく見えるな。
「信用されねぇと思うけど、これから証明してく」
どうして、そこまで本気なんだろう。
いや、本気かどうかはわからないけど。
この前会ったばっかり私を、よく知りもしない私を、どうしてそこまで本気で愛せるんだろう。
この子、本当に15歳?
「‥‥熱い男」
「!!」
熱い男‥‥!?
お母さんは、「熱い男」がお気に入り。
だから、最上級の誉め言葉だと思う。
「怖いほど本気な。怖いで、そんなに好きなんね」
「はい」
はいって言った! はいって言ったよこの人!