第4章 和み中。
でも、もしこの扉が開かなかったら──
その時は、大家さんの所に突撃しよう。
それか、まさか、もしお母さんが居たら──?
その時は、逃避行しよう。
「何してんだよ。早く入れろや」
「ま、待って」
少し覗いて確認すればいいか。
よ、よし、行くぞ‥‥
──キィ‥‥
‥‥ごくり‥‥「あー!おかえりぃ! 遅かったねー」
「うっわぁぁぁぁぁぁ!?」
早ッ! 出てくるの早ッ!
即座に扉を閉めて、爆豪さんの腕を掴む。
「おッ」
「行くよッ──」
「待てぇや! 人の顔見て叫ばんでよっ」
「うっっっっっわ‥‥」
地獄。手のひらが汗ばむ。
絡む視線。でもそれは私とじゃなくて、爆豪さんとお母さん。
呆気に取られて開いた口が塞がらない様子だ。両者とも。
爆豪さんが手を強く握り返してくる。
緊張しているのかな、と思いきや、その顔は妙に涼しかった。
「‥‥誰よ」
「こ、この人は、」
お母さんの顔が険しくなる。
そりゃ、そうだよね。久しぶりに会った娘が、見るからに年下の男と帰ってきたのだから。
誰だって、怪訝に思うだろう。
それに、私には彼氏がいた回数が片手で足りるくらい少ないから、どうしたって思うよね。
「‥‥言わないでいて、ごめんなさい」
「‥‥中、入ろ」
爆豪さんは、じっとお母さんを見つめている。お母さんも、視線を逸らすことはなかった。
何だろう‥‥波乱の予感。
家の中は仄かに昔の匂いがした。
‥‥シチュー、かな。
「‥‥玖暖の分しか作っとらんのよ。ごめんな」
「お構い無く」
あれ? 意外と静か‥‥。
この前とは違う、静かな大人びた態度にこっちが動揺する。
お母さんは、爆豪さんをソファーに座らせて、自分はテーブルを挟んで向かいの床に座った。
私は成す術もなく、立ち尽くす。
「玖暖、お食べ」
「‥‥うん」
台所に向かうと、お母さんは爆豪さんに何かを話し始めた。
何だろう‥‥テレビの音でよく聞こえない。
うわ、緊張してきた。さっきまで、どうしよコールが響いてたのに、今はもう違う何かが響いている。
恋愛沙汰には厳しかったお母さん。
自分も、若い頃結婚して不倫された経験があるからか、どうなのか。
彼氏に口を出したことはなかったけれど、年下って言うのは、やっぱり‥‥?
シチューをよそって二人のもとへ向かう。