第2章 オフ中。
────え────ッ!?
「よっ」と息を吐く声がすぐ傍で聞こえる。
体強張ってる。なんか、動かない。
無言の私をどう思ったのか、爆豪さんも中々立ち上がらない。
視線を感じる。
視線を落とすしかなくなる。
落とした視線の先で、手と手が触れ合いそうになっている。
息を呑む。
視界の端で、爆豪さんが微笑んだ気がした。
手が絡んだ。
耳まで熱くなっていく。
お互い無言のまま、爆豪さんが絡み合った手を握る。
「‥‥逃げねぇの?」
逃げなきゃいけない。分かってる。逃げるべきだ。逃げる逃げる。
この手を振りほどいて、最低って、叫んで、そしてまた歌おう。
何もかも忘れるように。
「‥‥やめないの?」
でも、
今の私は、そんなの望んでなかった。
真っ赤なはずの耳に、落ちてきた言葉は。
「誰がやめるかよ」
皮肉にも、今の私が一番望んでた返事。
───────---
グッ───
と手を引かれて、どこかに向かう。
爆豪さんが扉を開けて、何かを手に持った。
「部屋どこだ」
震える指で指し示す。
真顔でズカズカ進んでいく彼に、ついていくのに必死で。
なんだか、夢心地で。
ふわふわしてる。握られてる手が熱い。
私の部屋に入った爆豪さんは、バッグとプレートを持って足早に部屋を出た。
「自分で持てや」
差し出されたバッグを肩にかける。
会計を急かされるようにして終えて、夕暮れの街に出ていく。
少し歩いて、辿り着いたのは。
表札、『爆豪』の立派な家。
ひとつも明かりがついていないが、爆豪さんは構わず家の中に入った。
ズカズカと部屋の中を進んで。
ポイッと放り出されたのはベッドの上。
ここ、爆豪さんの部屋‥‥?
熱に浮かされたように、頭が回らない。
カーテンを閉めた爆豪さんが、ゆっくりこっちを振り返った。
その、ギラリと光る目。
ゾワッと背筋が凍る。
ギシッ───と鳴いたベッド。
どんどん近づく。
反射的に後退りをすると、腰をグッと引き寄せられた。
「‥‥名前」
「え」
「名前、なんだ」
「‥‥房田、玖暖」
「じゃあ、玖暖。
テメェ、俺のもんになれ」
心臓を鷲掴みにされるような言葉。
暗いせいなのか、何なのか。
私の胸は、うるさいほどに鳴っていた。
──喰われる──
喰われるんだ、私。