第1章 彼女の終わり
富士田くんが玄関を出るのにあわせて、下駄箱で靴を履き替える。
富士田くんのきれいな立ち姿をつい意識してしまって、少しだけ背筋を伸ばして、きれいな姿勢をとろうとしてみる。
私の下駄箱は胸くらいの高さだけど、あごを引いて、猫背にならないようにローファーを取り出す。
上履きをしまって靴を履き顔を上げると、富士田くんは途中で立ち止まって、女の子と話していた。
遠目で見ても、富士田くん以上にきれいな立ち姿と抜群のスタイルが目に入る、上品な華やかさを漂わせた女の子。ええと、確か……花岡さん。
クラスは一度も同じになったことはないけど、記憶に残っているのは、彼女と私の身長がほとんど一緒だったから。
去年何かの用事があって少しだけ話したことがあったんだけど、普通に立ってばっちり視線の高さがあって、ちょっと驚いたのをよく覚えている。
その時にも、足が長くてすらっとして、きれいな人だなって思ったっけ。
そんな彼女が、富士田くんと話していた。
仲、いいのかな。あんまりあの二人に接点があるようには思えない。
……いや、そんなことなかった。
遠くから二人を見ていると、かえってよく分かる。
二人とも、立ち方がよく似ていた。すっと背筋が伸びて、体の線の美しさを目立たせているよう。
花岡さんの方がずっと自然で、富士田くんはちょっと緊張している感じはするけれど、こういうのってなんだろう。自分を「見せる」人の立ち方、かなって。
モデルとか?……ううん、なんか違う。
少しだけ近づいて、二人の話しているのを見る。ちょっと距離があって、声までは聞こえない。
自然体の花岡さんと違って、富士田くんは花岡さんのことをあからさまに意識している。
明らかな好意、あこがれに近い表情の端々に、遠慮のような、隔意のような不思議な色が見え隠れしていた。
富士田くん、わかりやすい。
ぼうっと見ているだけでも、富士田くんが花岡さんのこと好きなの、すぐわかる。
声が聞こえなくてよかったなって、なんでか、そう思った。