第2章 彼の始まり
彼女は、閉ざされている。
僕の方を向いているのに、わからない。
わからない、ということが、痛いくらいにわかる。
僕の気持ちは、通じない。
「僕は……」
言いかけた言葉を飲み込んで、
それでも僕は、
「……僕と、また、会ってくれる?」
葦原さんは首を傾げて、
それでも、曖昧にうなずいた。
「卒業しても、元気でね。……史ちゃん」
僕は、精一杯の勇気を振り絞って、彼女を呼ぶ。
……いつか。
もう一度、あの笑顔を見る日まで。
僕は、君を追いかけていくよ。
僕の気持ちは、多分伝わっていないけれど。
史ちゃんは、もう一度、曖昧にうなずいた。
今日この日から、僕たちは、僕たちを始めよう。
春を運ぶ風が、僕の熱と決意を彼女に運んでくれることを願って、僕は笑った。