第7章 〖誕生記念〗溺れる微熱に、口づけの花束を / 石田三成
「ここへ来る途中、馬から落ちちゃいまして」
「え、馬から落ちたの?!」
「はい、飛び出してきた猫さんを避けようとしたら」
「猫さんって…」
「御殿にいる猫さんそっくりで焦りました。違う猫でしたが…止まろうと手綱を引いたら、そのまま振り落とされてしまいまして、あはは」
「と、とにかくこっちに来て!」
美依様は私を部屋に招き入れると、そのまま私を手当てしてくれた。
着物の上を脱いでみれば、腹や何やら打ち身になっている事が解り、美依様は顔を青くさせながら、丁寧に包帯を巻いていく。
足も捻って赤く腫れていたし…
手当てされ始めて、改めて若干痛みが沸いてきた。
きっとそれまでは、美依様に会いたくて会いたくて…痛みなんて感じる暇がなかったのだと思う。
「そんな訳で、家康様が私を気遣って帰れと言ってくださったのです」
ひと通りの手当てが終わり、美依様がお茶を淹れてくれたので、私は改めて事の経緯を美依様に話した。
無事に紛争も沈静化し、収まった事。
あと一歩で解決という所で、家康様が私に帰れと気遣ってくださった事。
私は無我夢中で馬を走らせ…
そして途中で落馬し、怪我を負ったこと。
すると、美依様はふぅっとため息を付き…
眉間に皺を寄せて、私に言った。
「もう、三成君無茶しすぎだよ…!あんなに傷だらけで帰ってきたら、驚くに決まってるでしょう?」
「はい、すみません。早く貴女に会いたくて……」
「……」
「貴女に誕生日を祝ってほしくて、無茶しちゃいました、本当にすみません」
(よく考えれば、美依様が心配するに決まってるのに)
早く会いに行けば、美依様は喜ぶだろうと思ったけれど…
これでは返って心配をかけただけだったな。
それに気づいて、少し心が沈む。
美依様が待っていたのは知っていたから。
だから、一刻も早く帰ってあげたかった。
喜ぶ貴女の顔を、見たいだけだったのに…
思わず、茶を飲む手を止め、俯くと。
目の前に居る美依様が、そっと私の手を握ってきた。
それに気付き、美依様に視線を移す。
美依様は微かに微笑んでいて…
まるで陽だまりのように優しく言葉を紡いだ。