第7章 〖誕生記念〗溺れる微熱に、口づけの花束を / 石田三成
────飛ばして飛ばして、一刻も早く
私は安土までの道程を、とにかく馬を飛ばして駆け抜けた。
美依様の笑顔を思い浮かべて。
とにかく、あの方に早く会いたかった。
風を切り、手綱をしならせ……
こんなに思いっきり駆けるのは、戦でも経験したことがないくらいに。
次第に、日が暮れ。
茜の空を、濃紺の闇が覆い始めても──……
私は馬の速度を落とさずに、ひたすらに走らせた。
────が、それが盲目となっていたようです
美依様だけを考え、他には目もくれず、馬をただただ走らせていれば……
ちょっとした『失敗』も大きな事故に繋がる。
普段なら、そんな事じゃ動じないはずなのに。
何も見えていなかったんですね、私は。
「────…………っっ!!」
逸る心が、仇となり。
まさか『こんな事』で『こんな目に』遭うとは思っていなかった。
本当に──……
私は駄目な男です、美依様。
貴女に呆れられてしまうかもしれない。
それでも、貴女に会いたい気持ちは止まらないのだけど。
*****
「えっ…三成、君っ……?!」
(あ、予想通りの反応だったな)
目を大きく見開く美依様を見て、私は思わず目を細めた。
まだ、日は跨いではいない。
どうやら『誕生日』に帰ってくることは出来たようだ。
安土に到着し、その足で美依様の部屋を訪ね……
すると、美依様はびっくりしたように私を出迎えながら、私を頭からつま先まで何度も見渡した。
「ちょっと待って、えっ、えっ……?」
「びっくりされましたか?誕生日に間に合いました…本当に良かった」
「うん、それもそうなんだけど……」
「はい?」
「三成君、ボロボロじゃない!どうしたの、その怪我……!」
(……あ)
改めて、今の自分の風貌を見て、目を瞬きさせる。
袴は切れているし、ホコリだらけで、頬も切れてるし。
確かに女性を訪ねる格好では無かったな。
おまけに、足も引きづっているなんて。
美依様に会いたぃ気持ちが強すぎて、『あんな事』があってもそのまま来てしまったからな…
私は後ろ頭を掻きながら、少しバツの悪そうに答えた。