第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
────月、冴ゆる夜に恋情を焦がせ
俺達は飽きることなく、抱き合いながら…
お互いの気持ちを通わせ『愛してる』と伝えあった。
その後『家康、お誕生日おめでとう』と。
美依が口にしたのは、腰砕けになった美依を背負って帰途についた時。
その時はとっくに空も白んでいて、俺の誕生日になっていた。
だが、俺達は真冬の夜に外で睦み合った事が原因で、二人して風邪を引いた。
もちろん、秀吉さんにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
でも───………
あの日花火が上がったのは、秀吉さんが花火師に掛け合ってくれたおかげなのだと、後から知った。
俺達の仲直りのきっかけ作りにと、無理やり頼み込んだのだと他の人から聞かされ、美依と二人して苦笑してしまったし。
そして、美依が用意してくれた贈り物が何だったかと言うと───………
*****
(……よし、これでいいか)
辛子色の羽織を最後に着て、鏡で確認する。
今日は美依と逢瀬をする日だ。
やっぱりこの羽織は、普段には着れない。
せっかく美依が贈ってくれたものだから。
でも着てきたと解れば、あの子はふにゃりと笑って喜ぶのだろう。
贈られてから、逢瀬にはこれしか着ていないし。
まあ…暖かくなったから、そろそろ季節的に着れなくなるかもしれないけどね。
「家康、準備できた?」
その時、ぱたぱたと走ってきた音がして、部屋の襖が開いた。
そして、美依がひょっこり顔を出す。
俺は美依の方を振り返り、小さくため息をついて……
いつものように『禁止事項』を繰り返した。
「走るの、禁止。妊婦は走ったら危ないでしょ」
「あ、ごめんなさい」
「あんた、今日は体調いいの?」
「悪阻も酷くないから、全然大丈夫!」
「ならいいけど」
「せっかく白無垢見に行くのに、体調悪くなってられないもんね」
本当は御殿に用意させても良かったんだけどね、白無垢。
舞い込む幸せっていくらでもあるんだなと……
にこにこと朗らかな笑みを見せる美依に、俺も困ったように笑みを浮かべた。