第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
「美依、待って」
「……っ、私は秀吉さんに呼ばれて来ただけで……」
「俺も秀吉さんに呼ばれた、ここに来いって」
「え……?」
そこで美依はこちらに振り返る。
その困惑したような表情、俺とて戸惑っているのは同じだ。
まさか、秀吉さんはわざと?
俺と美依を呼び出して、鉢合わせさせるために。
仲直りする術を考えてくれたのだと思っていたけれど…
それは無理やり引き合わせて、謝るきっかけを作ってくれたという事なのか。
(なら……この機会、無駄にはしない)
せっかく数日ぶりに美依に会えた。
謝罪の言葉は、たくさん用意した。
後は…ひねくれずにそれを伝えるだけだ。
無理強いしてごめんと。
あの日は余裕が無くて、悪かったと。
あんたをもっと大切にするから…
どうか、また笑顔を見せてくれと。
そう素直に、口から零せばいい。
俺は美依の手を強く握る。
そして、意を決して口を開いた。
「美依、俺……」
「っ……」
「俺……っ」
しっかりしろ、ちゃんと言葉を紡げ。
一回喉を鳴らし、再度声を絞り出そうとした。
────次の瞬間
ヒューー……ドンッッ………!!
「………!」
突然、腹の底に響くような重く低い音がなり、頭上が明るくなった。
俺と美依は二人して空を見上げる。
さすれば、大輪の光の華が咲いているのが解り…
それは次々と下から発射され、夜空を彩った。
ドンッ……パラパラパラ………
ヒューーッ…ドォンッッ…パラパラ……
真冬の空に花火が輝く。
それは普通なら考えられない事だ。
濃紺の中に赤や白、緑……
色鮮やかにいくつもいくつも。
光の筋を作って登っていき、それが弾けた。
「わぁっ…花火だ……!」
「なんか行事、あったっけ……?」
「すごーい、綺麗……!」
見れば、美依は空に釘付けだ。
そして、華やいだ笑みを浮かべている。
目をキラキラさせて、嬉しそうに。
ああ……花火より、美依のが綺麗。
その笑顔は、俺の宝だ。
それが見れないだけで、苦しくなる。
触れ合う時間も大切だけれど……
俺は、この子の笑顔の方が大切なんだ。