第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
(秀吉さん、こんな所で何の話なんだ)
境内の柵に背中を付け、小さくため息をつく。
俺は言われた通り、城下の外れにある神社に向かい、そこで秀吉さんを待っていた。
空にはもう月が昇って、煌々と輝いている。
そのお陰で明るく、足元には真っ黒な影が伸びていた。
……秀吉さん、やっぱり美依絡みの話だろうか。
誕生日はもう明日。
多分秀吉さんは、何かしら美依と仲直りする術を考えてくれたのだと思う。
だから、こうして俺を呼び出したのだ。
でも…なんで夜に神社なんだ?
今日は暖かめとは言え、夜になれば外は結構冷える。
まあ、雪が降っていないだけマシかもしれないが。
「美依……か」
名前をぽつりと呟き、またひとつため息。
『美依』と言う単語だけで焦がれた心地になるのは、本当に情けない。
それほど溺れているのだと自覚させられるから。
今日も一日、姿を見る事は出来なかった。
少しでも…会いたい。
せめて謝る機会がほしい。
そう思い、俯いた顔を上げた。
その時だった。
(あれ………?)
向こうから小さな人影が近づいてくる。
いくら月が明るいとは言っても、今は夜。
顔までははっきりと見えないが……
それでも、その格好には覚えがあった。
まさかと思っていれば、その影は近づいてきて。
顔がちゃんと認識出来る距離になり、俺の姿を確認するや否や、驚いたように丸い目を見開いた。
「家、康……?!」
「……っ、美依……!」
それは俺が数日間、焦れに焦れて……
会いたくて堪らなかった、美依だった。
美依は何故俺が居るんだ、と言ったような顔をしている。
それは俺とて同じ事。
てっきり、秀吉さんが来ると思っていたから。
俺達は棒立ちのまま見つめ合い、お互い目を丸くさせて。
だが、そうやって立ち竦んだのもつかの間。
美依がくるりと背中を向けて、来た方に引き返し始めた。
まずい、せっかく会えたのにと、俺は焦ってそれを追いかけ……
後ろから、その小さな手を掴んで引き止めた。