第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
すると、秀吉さんは少しだけ天井を見て、また小さく溜息を吐いた。
呆れられたかな、そう思っていれば…
秀吉さんは俺の肩を掴み、うんうんと数回頷く。
「成程なぁ、俺はお前の気持ち解るぞ。惚れてる女に触れたいと思うのは当然だし…ずっと離れていたなら尚更な」
「……ありがとうございます」
「だが、無理矢理は良くねぇな。そこはもっとお前が大人になれ、拒まれたって嫌われた訳じゃない。一時の我慢なんだからな」
「……はい」
「でもまあ、余裕ない時はそうも言ってられないよな…うーん」
秀吉さんは俺の肩から手を離すと、顎に手を当て何かを考えるように唸った。
何か手を考えようとしてくれている、本当に優しいな、この人。
だが、これと言って思い浮かばなかったのか…
秀吉さんは少しだけ困ったように笑うと、今度は俺の頭を少し強めにわしわしと撫でた。
「仲直りの方法は何か考えてやるから。とにかく、一刻も早く仲直りしないとな」
「……そうですね」
「だってお前……」
「……?」
「明後日、誕生日だろ?」
(……言われてみれば)
秀吉さんの言葉に、はたと気がつく。
明後日は一月三十一日、俺の誕生日だ。
今の今まですっかり忘れ去っていた、正直誕生日はさほど重要視していなかったから。
せっかくの誕生日、美依と過ごしたい。
あの子はきっと、俺の誕生日を喜んでくれるから。
今の状況だと、それは無理かもしれないけど…
でも、謝るきっかけくらいはほしいな。
……もう触れたくて焦れてる心は、限界になっているから、正直。
「秀吉さん、心配かけてすみません」
情けなく溢れた謝罪の言葉に、秀吉さんはさらに頭を撫でてくれた。
いつもなら『犬みたいに撫でないでください』と憎まれ口も出るとこれだけれど…
やっぱり今の俺は、想像以上にやられているのかもしれない。
その後、秀吉さんと仕事の話をして、その時はそのまま別れた。
だが…秀吉さんは、本当に仲直りの打開策を真剣に考えてくれたらしい。
秀吉さんから呼び出しされたのは、次の日の夜。
明日に誕生日が迫った…少しだけ暖かなその日の事だった。
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