第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
「……だから……こいよ?」
「……」
「家康、聞いてるのか?」
「あ…すみません、聞いてませんでした」
目の前にいる秀吉さんが、めずらしく少し怒ったような顔つきになる。
そして盛大に溜息をつかれてしまい…
申し訳なかったと思いつつ、俺も小さく吐息を漏らした。
あれから───………
美依は俺を避けているようで、一切話もしないまま数日が過ぎていた。
どうやら御殿には帰らず、城の自室で過ごしているようだと。
誰かからそんな話を聞いた。
それはよっぽど怒っている証拠。
御殿からも出ていってしまうなんて、相当ご立腹のようだった。
まあ、駄目と言われたのに襲うことをしたんだから、当たり前だよな…
そんな風に思っていれば、秀吉さんが俺の様子を見て、いきなり核心を突く言葉を掛けてきた。
「……美依と何かあったのか?」
「えっ」
「最近美依、城の自分の部屋に帰っているみたいだからな。お前も様子がおかしいし」
「……」
「何かあったなら、相談くらいは乗れる。溜め込むのは良くないぞ」
(相変わらずだな…秀吉さん)
この人を嫌いになれる人がいるのだろうか。
面倒見が良く、周りに気を配って、些細な事にも気にかけて…
そんな人だから、色んな人がこの人を慕うのだろう。
女達に人気があるのも…解る気がする。
そして、美依の兄のような存在。
そんな秀吉さんなら、もしかしたら打開策も思いつくのかもしれない。
そう思ったら、自然と言葉を紡いでいた。
「……完全に俺が悪いんです。今の俺は余裕がないから」
そして、すべてを秀吉さんに話した。
公務で出かけていて、すっかり美依不足に陥ってしまった事。
帰ってきてから美依に触れようとしたが、美依の身体の不調で拒まれた事。
それでも少しでも満たされたくて、つい強引に迫ってしまったら…美依を怒らせた事。
話せば話す程、情けなくて堪らなくなる。
そのくらい、あの夜の俺は余裕がなかった。
自分が満たされたい、それだけを思い、美依を気遣ってやれなかった。
……まあ、余裕がないのは今も然り。
美依欠乏症がさらに酷くなって、顔も見れない状況に憔悴している自分がいる。