第37章 〖誕生記念〗焦れる想いを濃紺の冬空に咲かせて / 徳川家康
「ダメって言ってるのに…家康のわからず屋」
「美依……」
「家康がそんな人だとは思わなかったよ…!」
「……っ」
その言葉がぐさりと胸に刺さる。
傷ついたような声色に、俺も急いで立ち上がり…
背中を向ける美依の肩を掴んだが、勢いよく振り払われてしまった。
小刻みに震える華奢な肩。
もう一度掴むのは…躊躇われた。
「家康なんか、もう知らない……っ!」
「……っ美依!」
美依はそのまま走って部屋を出ていく。
名前を読んだ声は闇夜に溶け、引き止めることすら出来なかった。
一人部屋に取り残され、俺は『くそっ』と自分の頭を掻きむしる。
余裕がなかったとは言え、美依に酷い事をした。
そして…あんなに傷ついた顔をさせた。
背を向けていた時、泣いていたかもしれないな。
美依を泣かせるなんて…
絶対にしたくなかったのに。
「あー…何やってるんだよ」
俺は思わずその場で項垂(うなだ)れ、今まさに自分のしてしまった事を悔いた。
確かに、今の自分は辛い。
けれど…美依にあんな顔をさせたのは、もっと辛い。
もう少し、やり方があったのではないかと。
後悔した所で、もう取り返しがつかないのだけれど。
────美依…ごめん
その寒い日の夜。
美依と喧嘩した俺は、ただひたすらに罪悪感に苛まれながら、一夜を過ごした。
おかげで『美依欠乏症』はさらに深刻になる。
でもそれは自分のせいなのだと…
改めて思えば、溜息しか出てこなかった。
少し触れるのも拒んだ美依。
やはり月のモノのせいで体調が悪かったのか。
それとも、別の理由があるのかな。
それは、考えても解らないけれど…
とにかく、美依に謝らなくては。
一人部屋で長い夜を過ごしながら、考えるのは美依の事ばかり。
結局はあの子に溺れているのだと…
それを再認識させられた冬の夜だった。
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