第35章 【戦国Xmas2020】武田信玄編
「一応、礼は言う。子供達も目が覚めたら喜ぶだろう。さんたくろーすとやらの話は、私から説明しよう」
全員分の贈り物を枕元に置き…
早々に退散する事にした俺達を、顕如は穏やかな顔つきで見送ってきた。
……ああ、昔のお前に戻ってきたな。
酒を酌み交わしていた時の、優しく生真面目なお前に。
復讐鬼として、身を堕として…
それを死ぬ事ではなく、生きる事で償おうと決めたお前は、誰よりも変わったと俺は思う。
「顕如、ほら…お前にも」
「何?」
「顕如さん、私達から顕如さんに贈り物です」
俺は袋の中から最後の包みを取り出すと、顕如の手を取り、それを強引に握らせた。
驚いたように目を見開く顕如に…
美依が優しく笑み、言葉を紡いだ。
「中身は実はお酒なんです。また…信玄様とお酒を酌み交わしてくださいね?」
「お嬢さん……」
「全く同じ"昔"には戻れなくても…きっと近づける事は出来ると思うから」
「……」
美依が言えば、顕如は少し気恥しいのか、仏頂面で目を細める。
どうやらそんなに嫌ではないらしい。
もしかしたら、昔のように酒を酌み交わせる日は近いのかもしれないな。
それを思えば、なんだか心が温まった。
それもきっと美依が現れなかったら、絶対に有り得なかった事で。
俺は病でこの世にいなかっただろうし、顕如は…まだ修羅の道を歩いていただろう。
俺達の行く道が交わる事は、二度となかったはずだ。
(本当の意味での天女を、俺は手に入れた)
それはとても幸運な事で、奇跡に近い。
……この男にも俺のように、愛する女でも出来ればいいんだが。
そうしたら、この男はまた幸せになるだろう。
そんな相手が、いつか現れるといい。
そう願わずにはいられない。
「それじゃあ信玄様、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな。"めりーくりすます"だ、顕如」
「……また、二人で来るといい」
顕如の言葉に、俺達は思わず顔を見合わせ、笑みを零した。
『次の約束』が出来るとは思わなかった。
今度は…もっと距離が縮まるといい。
それを思いながら、俺と美依は寺を後にした。