第35章 【戦国Xmas2020】武田信玄編
「なるほど…それでここは仏寺にも関わらず、神教の祝い事を持ち込んだ訳か」
「硬いことを言うな、顕如。子供達が喜ぶ顔を見たいだろ?」
「ごめんなさい、顕如さん!私も贈り物を届けられたら素敵だと思ったので」
「お嬢さんにも謝られては、駄目とは言えまい」
顕如は呆れたようにため息をついたが、満更悪い気もしていないようだ。
俺が美依の顔を見て片目を瞑れば、美依も気持ちを察してくれて、はにかんだように笑った。
ああ、可愛い顔だな。
これはこの大作戦が終わったら速攻で閨行きだ。
そんな事はここでは言えないけれど。
そのまま寺内に通され、子供達が寝ている部屋に案内される。
一室には子供が数人、身を寄せ合って眠っていて…
その無邪気な寝顔を見ていたら、自然と表情が緩み、とても穏やかな心地になった。
「よく眠っていますね、信玄様」
「そうだな、じゃあ…贈り物を置くとしようか。起こさないようにな」
「はーい」
俺と美依で、そっと部屋に入り…
そして、枕元に静かに贈り物の包みを置いていく。
包みの中身は、美味いと評判の甘味と、美依の縫った御守りの詰め合わせだ。
身寄りがなく、辛い思いもしてきただろう。
だからせめて…少しでも温かな気持ちに触れてほしい。
(美依との間に子が出来たら、やっぱりこうするんだろうな)
ふとそんな事を思い、思わず苦笑が漏れた。
美依と出会う前であれば、自分の子など考えもしなかったのに。
思い描くのは『自分の居ない未来』ばかりで。
俺はその礎になれればいいと…
先の幸せは考えられなかったし、女を好きになって傍に置くこともしなかったから。
でも…今は美依がいる。
病も未来で治療し、完治してまた帰ってきた。
こんな奇跡が起きたのも、美依のおかげだ。
だから今は先の未来を描ける。
きっと、自分の子にも会えるのだろう。
────君も同じ気持ちならいいんだが
美依を見たら、美依は幸せで嬉しそうな笑みを返してくれた。
ああ、きっと…同じ事を考えていたのだろうなと。
それを思えば、温かで穏やかな優しい気持ちが広がっていった。